過去10年間(平成15年度~24年度)に、東京労働局管内で発生したガラス外装クリーニング作業の死亡事故は17件でした。
そのうち11件がブランコ作業で、ロープのはずれが4件、切断が3件、準備中や移動中に屋上から墜落したのが4件ありました。
先般、福岡市で、ライフラインに墜落阻止器具をセットする前に墜落して重傷を負った事例が報告されたばかりですが、これは準備中に屋上から墜落したものです。
8月2日に神戸市で発生したばかりの墜落死亡災害も、詳細は不明ですがブランコ作業の準備中ではなかったかと推察されています。
こうした屋上からの墜落を未然に防ぐことができれば、ブランコ作業の墜落災害の発生率は かなり低減されるものと推察されます。
さて、墜落の危険因子は笠木です。これは摘み取ることができないリスクです。
この笠木というリスク上で作業者が不安全行動を起こすと、墜落することがあり、はなはだ危険です。(写真1.2参照)
リスクアセスメントには、墜落の可能性を以下の1~5のレベルで表す方法があります。
5:頻繁に定期的に発生する。
4:ときどき発生する。
3:たまに発生することがある。
2:可能性は低いが発生したことがある。
1:可能性はきわめて低い。
同じく、事故の結果(ケガの結果)は以下の1~5のレベルで表します。
5:死亡
4:メジャー(失明や手足の切断)
3:休業4日以上
2:休業4日以下
1:マイナー(軽微)
リスクの大きさは、可能性に結果を乗じた数値 (可能性×結果)で表します。
高:(25~15)作業を認めない。他の安全な方法に変更する。
中:(12~ 8)リスク値を低減するための対策をたてる。
低:( 6~ 1)許容範囲だが、さらにリスク値を低減する対策をさがす。
写真 2 は、安全帯を使用するなどの墜落防止が講じられていませんが、簡単には墜落しないので、可能性は2 と見積もるのが適当でしょう。(笠木の幅が狭い場合は 2~3 にあげる。)
墜落の結果はファクターによって変わるので、正確に予測することはできませんが、最悪、5と見積もるのが普通です。
したがってリスクの大きさは 2×5=10 となり、中レベルなので、リスクを低減するための対策が必要になります。
いちばん望ましいのは、危険因子の摘み取りですが、先に述べたように、笠木は摘み取ることができません。
対策は、手の届く高さに水平親綱を張り、レストレインで墜落を未然に防止するのがベストです。 (レストレインとは適切な長さのランヤードで作業者の行動を制限し、墜落のリスクある場所へ立ち入らせない対策です。危険な衝撃荷重はかからないので、水平親綱を使用してもOKです。)
本来ならば、ここで講釈が終わるところですが、問題はそう簡単に解決はしません。
どういうことかというと、手の届く高さに水平親綱を張るためには、壁面にアンカー(ボルト)を設置しなければなりません。
そのためには、建物の所有者の許可が必要になります。
しかし作業者レベルで許可を取り付けることは、ほとんど不可能です。
リスクアセスメントは全員参加だからといって、現場に作業者が集まってから行っても手おくれです。
リスクアセスメントは、作業計画の段階で終わっていなければなりません。
これは、建物管理会社と作業のスーパーバイザーの仕事です。
作業者にまかせても解決しません。
※ 当該現場は、ある特別なロープの運用で、リスクを低減する対策がとられていました。若干、残留リスクがあるようですが、許容範囲には近づいていますから、あとはKY・5S で安全作業を願います。
ご安全に