先にも記しましたが、過去10年間に発生した東京労働局管内におけるガラスクーリーニング業の、11件のブランコ作業の墜落死亡災害のうち、4件がロープの解け・ハズレによるものでした。
こうした事故の多くは、ヒューマンエラーが直接原因ですが、だからといって 『あなたが悪い』 と、作業者に責任をかぶせてみても問題は解決しません。
たしかに、ちゃんとしたロープの結び方やリギング法をマスターすることは、作業者にとって大切ですが、だれしも魔がさすことがあります。
事故を未然に防ぐためには、作業者がぶら下がるメインロープがほどけても、バックアップのロープで 安全に墜落を阻止できる仕組みが必要です。
さて、ロープアクセスにおいては (ブランコ作業もロープアクセスの一つですが)、ロープは 2 本、ロープを取り付けるアンカーは 複数、そして墜落防止措置は 2 重と、あらゆるものに常時 2 ポイントの作業者の保護が要求されています。
この 意味がわかっていない人 は、せっかくのバックアップを外してしまい、1 ポイントになってしまうことがままあります。
墜落災害は、この残された 1 ポイントがダメになったときに発生します。
過去の事例をみると、ロープの解け・はずれによる事故は、ロープに荷重がかかっているとき、すなわち作業者がロープにぶら下がっているときに発生しています。
総じて、バックアップが機能ぜず、墜落災害に至ったものです。
バックアップが機能しなかった原因は、フォールアレスター (墜落阻止器具) の使用上のミスも可能性としては考えられますが、多くは前述したように、不用意にバックアップを外していたものと推察されます。 (はなからバックアップを使用していなかった事例もありますが、…はじめから安全のルールを守っていないのですから、これは論外)
作業者が、たいせつなバックアップを解除してしまうには、それなりの理由があります。
左の写真は、笠木をまたいでロープにぶら下がった状態の一例です。
ワークラインとセーフティラインが交差しています。
ワークラインを背後からかわすと復旧できそうですが、そうすると今度は、アサップが利き手側 (右) になってしまい、作業がわずらわしいものになってしまいます。
他にも、アサップがワークラインにからむ例があり、いずれも一旦アサップをはずしてセットしなおす必要があります。
また、アイディにセットしたワークラインのテールロープ (握ってコントロールする側・アイディの下方) が内側 (左) になることがあり、このときは、そのままでは作業がわずらわしいので、一旦アイディからロープをはずし、セットしなおします。
ただ、不用意にアサップをはずしたり、アイディをはずしたりすると、せっかくの 2 ポイントが 1 ポイントに減ってしまい、リスクという敵に対してスキを見せることになり、はなはだ不安全です。
古式ゆかしいブランコ作業でも、墜落阻止器具のランヤードがメインロープがからむことがあるようで、そうしたわずらわしいことを避けるため作業者は、さいしょに墜落阻止器をセットするという安全のルールをあきらめ、ブランコ台に座ってから墜落阻止器具をセットすることがあるようです。
不幸にして、このとき、ぶら下がっているロープがはずれでもしたら、バックアップがないので墜落は止まりません。
こうした事故はほんとうに発生したことがあり、ブランコの安全講習会でかならず紹介されています。
いずれにしても、ロープのからまりや器具のセットのふてぎわを、安全に復旧する手順は、ロープアクセスの初級技術ですが、GCAのブランコ作業マニュアルには記載がありません。
ブランコ作業の安全講習会で、たまに話題になることがありますが、訓練の必要なテクニックを机上でおしえるには限界があります。
耳学問はへの突っ張りにもなりません。
ちゃんとトレーニングを受けて、正しい手順をマスターしていただく必要があります。
ヨーロッパでは、ロープアクセスの技術トレーニング (アセスメント含む) はもとより、一般の高所作業の安全講習も、3年サイクルで受講することが法律で決められています。
テクニックを完璧にマスターするには、反復練習がひつようです。
興味にある方は、弊社の実技講習会にご参加ください。
ご安全に