ブランコ作業で使用するロープは、直径16ミリ以上の太い三つ縒り構造から、直径11mmの細いカーンマントル構造に代わりつつあり、資器材(ロープのコントロールデバイス)もまた、ヨーロッパ規格のロープアクセス製品(EN 12871)に取って代わられつつあります。
遠からず、ロープアクセス技術を知らずにブランコ作業を語ることは、困難になること間違いないと推察されます。
それでは、ブランコ作業とロープアクセスの安全基準を、比較してみることにしましょう。
国内のブランコ作業の安全基準(全国ガラス外装クリーニング連合会)は、以下に示す6条件です。
1.ブランコ作業を行う場合はライフラインを設置する。
2.作業用具には落下防止の措置を施す。
3.安全帯を装着する。
4.墜落防止器具を使用する。
5.地上には、立入禁止区域を設ける。
6.保護帽を着用する。
上記は、2(用具の落下防止)と、5(立入禁止区域の必要性)で、第三者災害防止にも配慮しているので、労働者自身の保護に関する項目は、1(ライフラインの設置)、3(安全帯の装着)、4(墜落防止器具の使用)、6(保護帽の着用)の四項目にすぎません。
また上記は、「安全帯の規格」をよりどころに作られたため、万が一の作業者の墜落を阻止する項目はありますが、肝心な下降時・停止時の、メインロープ上の作業者を保護する項目が抜け落ちています。「安全帯の規格」は、作業者のロープ上の移動・停止を想定した法律ではありませんから、ブランコ作業の参考には難しいのではないかと推察されます。
一方、ロープアクセスの安全基準(欧州指令2011/45/EC)は、6条件すべて、労働者自身の保護に関する項目です。その要約を以下に示します。
1.独立した支点に連結された二つ以上のライン(メインロープとライフライン)により、システムが構成されていること。
2.作業者が適切なハーネスを装着し、ライフラインに連結されていること。
3.メインロープには安全装置を有する器具を使用し、ライフラインには作業者の動きにあわせて移動する「mobile fall prevention system」を使用すること。
4.ギアは適切にハーネス等に連結されていること。
5.緊急時のレスキューも行えるよう、作業が適切に計画・監督されていること。
6.作業者はレスキュー技術を含んだ適切なトレーニングを受けていること。
ブランコ作業との大きな違いは、まず、下降器具に安全装置が義務付けられている点が挙げられます。ブランコ作業は使用するロープが三つ縒り構造なので、専用の下降器具がなく、シャックルにロープを巻きつけるなどのアイディアが採られてきました。カーンマントル構造のロープを使用する場合は、8環型の下降器具を使用するのが普通ですが、双方とも安全装置がないため、ロープをコントロールしている手を離したら、たちどころに墜落してしまいます。事実、そうした事故は耐えることがありません。
次は、レスキューの必要性とトレーニングの義務化です。どういうことかというと、ロープの登下降、ロープからロープへの移動、結び目の通過、その他障害物の通過といったマヌーバーは、実際に作業で使うテクニックですが、作業というものは、事前にリスクアセスメントを行うことが義務付けられてるものです。したがって、すべてのマヌーバーは、現場の同僚によるレスキューが可能な、安全なテクニックであることが証明されていなければなりません。また作業者には、確かなレスキュー技術が求められます。
ビルのガラスクリーニングの現場では、むずかしいスキュー技術は必要ないかもしれませんが、少なくとも、下降中に動けなくなった作業者を、同僚が救助できる程度の技術(下降モードのスナッチレスキュー)は、身につけておきたいものです。