FTGロープアクセス

  • リスクアセスメント担当者養成研修に参加して-2

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    写真1:スライド
    写真1:スライド

    墜落阻止器具をリスクアセスメントする

     「ブランコ作業の墜落防止システム・墜落阻止器具」をテーマにリスクアセスメントを行いました。これは講師の先生に「模範的な解答である」と言われたので、参考までに以下に記します。

    1. 危険性または有害性と発生のおそれのある災害

    メインロープ側のトラブルで、墜落が発生したとき、バックアップの墜落阻止器具が正常に機能せず、ライフライン上を滑ってしまい、作業者が地面にたたきつけられて死亡しました。墜落の原因はメインロープ側にあります(ロープの取り付けを含む)が、墜落が阻止できなかったという点で、バックアップであるライフライン側の問題は見逃せません。危険の源は、墜落阻止器具です。

    1. 既存の災害防止対策とリスクの見積り

    墜落阻止器具がスライド(写真1参照)の場合

    作業者を墜落から保護するデバイスとして、ブランコ作業では長い間スライドが頻用されていました。「安全帯の規格」が安全のよりどころだったからです。なぜ「安全帯の規格」なのかというと、80年代前半、ブランコ作業のマニュアル作成に当たったGCAの先輩方が、東京労働基準局(今の東京労働局)に相談したことに端を発します。今でいうところのリスクアセスメントを実施したのです。リスクの低減対策に「必要に応じて行政方に相談する。または専門家に意見を求める」という項目があります。法を遵守させるのが行政官ですから、「安全帯の規格」に従うようご指示されました。

    しかし時は流れて、古い技術は陳腐化します。19年前になりますが、GCAが安全帯メーカーの協力で実施したスライドの実験で、たかだかカラビナ1個の倍落下(10㎝×2)で墜落が止まらず、重さ75kgの落下体が地面にたたきつけられてしまい、みなさんあっけにとられたことがありました。さらには、ブランコ作業でメインロープがほどけて墜落したさい、確実にスライドを使用させていたにもかかわらず、作業者が地面にたたきつけられ、死亡災害に至った事故も発生しました。スライドは、かなりの確率で、墜落が止まらないことがあります。本来スライドは、ゴンドラなど作業者がちゃんと足で立てる環境で使用する第2の墜落防止措置です。作業者がロープに支えられた垂直の作業環境で使用することは、まったくの想定外です。ブランコ作業に専用の器具がなかった時代には、それでも仕方がありませんでした。

    可能性2×結果3=6:リスクレベルⅢ(直ちに解決すべき重大なリスクがある)…

    それでもライフラインを使用しない一本吊りと比べたら、リスクは低く抑えられています。

    可能性3×結果3=9:リスクレベルⅢ(直ちに解決すべき重大なリスクがある)

    どちらもリスクレベルはⅢですが、ライフラインとスライドで9から6まで下がったのが3×3のリスク配列で分かります。

    つづく

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  • リスクアセスメント担当者養成研修に参加して-1

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    今後は、各業種専用のテキストが必要だと痛感した次第
    今後は、各業種専用のテキストが必要だと痛感した次第
    修了証をいただいてリスクアセスメントができるようになった思うのは錯覚
    修了証をいただいてリスクアセスメントができるようになった思うのは錯覚

    以下は、東京GCA の月刊誌「GCAEYES」2014年12月号に投稿したものです。

    はじめに

     リスクアセスメント担当者養成研修というセミナーがあるので、協会(東京GCA)トレーナーは参加するよう協会理事の依頼を受け、参加しました。このセミナーは、中小零細規模の事業場で労働災害が多発していることから、従業員50人以下の企業にもリスクアセスメントが定着するよう、厚生労働省が一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会に委託したものです。講習は2日に渡りました。

     当節、リスクアセスメントは人気がありません。私は職業柄、日本各地の高所作業の現場へ出張する機会がありますが、リスクアセスメントを積極的に実施している事業場に出会ったことがありません。「リスクアセスメントですかぁ?? 以前はやっていましたけどねぇ…」そんな回答ばかりです。リスクアセスメントが途中で止まってしまうのには、何か原因があるように思われてなりません。今回のセミナーは、その原因をあらわにできた点で、素晴らしい機会であったと思います。

    はなからお手上げのリスクアセスメント

     9月30日、東京都中小企業振興公社秋葉原庁舎において、1回目のセミナーが開催され、16名の協会員が受講しました。机上講習とグループ討議が行われ、最後に宿題が出ました。宿題は2回目のセミナーで使用する課題で、任意のテーマを3×3のリスク配列を用いて、リスクレベルの低・中・高をそれぞれⅠⅡⅢで見積もるものでした。2回目は場所を協会事務局会議室に移し、1118日と21日に参加者を分けて開催されました。18日は参加者4名、欠席2名。21日は参加者7、欠席3名。

    2回のセミナーは、宿題のリスクアセスメントを全員で検討するグループ討議でしたが、私以外の受講者のみなさんは、いずれも作業環境をテーマにしたリスクアセスメントを提出されました。(私は18日参加したので、21日は不明)

    「墜落防止のために、親綱の設置が必要なのに、その親綱を取り付ける設備がない」

    「屋上の高いフェンスを乗り越えるのは危険だから、フェンスに扉が必要である」

    といった内容です。これらは、設計施工の段階でちゃんとメンテナンス計画を立て、必要なモノづくりをしていれば、生じるはずがないリスクですが、建物が完成してからでは手の施しようがない難問です。作業会社はもちろんのこと管理会社にも解決できっこありません。はなからお手上げとわかってアセスメントをやるのは空しいものです。

    採れる対策を要約すると

    「バリケードを張って作業区画を確保する」

    「見張りを増やして監督レベルを上げる」

    「作業者に訓練を施す」

    「指さし呼称の実施」

    など管理的対策と

    「有効な墜落防止措置を図る」

    といった保護具の使用に限られました。

    リスクアセスメントの手法では、リスク低減措置の優先順位を

    1. 安全な作業方法に変更する“本質安全化対策”
    2. 不安全な作業環境を改善する“安全防護対策”
    3. 立入禁止区域の措置や研修・実技訓練を行う“管理的対策”
    4. 保護具を使用する“保護具使用対策”

    の順番で進めるのが普通ですが、管理的対策と保護具の使用はヒト対策で、低減措置としては最低のヒエラルキーです。リスクは満足に低減しません。有効な工学的モノ対策が採れないので、ヒト対策に頼るしかないのです。でも、ヒトはムリをします(できる・させる)から、ヒューマンエラーのリスクがついて回ります。ムダな人件費も見逃せないリスクです。作業のムラもリスクです。これら残留リスクの低減措置はKY・5Sになりますが、ハイリスクな作業でリスクアセスメントの成果がKY・5Sであるならば、期待外れと指摘されても仕方がありません。協会員のみなさまは、こうなる現実をよく理解されておられ、リスクアセスメントの結果がKY・5Sにしか収まらないことを認識していることが分かります。

    リスクアセスメントを成功させるために必要なこと

      作業会社の間で作業環境がテーマにのぼると、リスクアセスメントは座礁した船のごとくに行き足を止めてしまいます。難破船にしないためには、建物の設計段階から参画してリスクアセスメントを行い、作業のインフラを設計し、メンテナンス計画を立てる必要があります。私が2年前まで在籍していたガラスクリーニングの専門会社は、会社設立の早い時期からガラスクリーニングを清掃業務から分離して発注するよう発注者側に提案し、実現させてきました。そして作業環境の改善のお願いを、管理会社を通さず、直接発注者に訴えることができる立場を確保しました。某電話会社、某鉄道会社、某生命保険会社の社屋で、ブランコ作業のインフラが完璧なのは、その成果です。また幾つかのタワーと名のつく大型ビルで、ゴンドラが設置できない複雑な吹き抜けには、ちゃんとロープを取り付けるインフラがありますが、それも設計施工段階から参画し、リスクアセスメントを行った成果にほかなりません。ただしインフラは、使いこなす技術がないと宝の持ち腐れです。

     補足しますが、大型物件のインフラ整備はリスクアセスメントの成果で、作業手順書と対を成す重要な企業秘密です。入札の企画提案コンペのさい、提出を命じられ、公開せざるをえない運命を呪ったものです。しかし同じことができる競合相手がいなかったのもまた事実です。これからは、誰もがインフラを使いこなせるよう、技能レベルを向上させる必要があります。これもリスクアセスメントの一つです。業界の地位向上にかならず役立ちます。

    つづく

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  • 今年の墜落災害事例に学ぶ

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    気が付けばはや師走、今年は事故の多い年でした。
    都内のビルの窓ふきの現場で、墜落災害が3件発生し、被災者は4人でした。
    これ以上事故を出してはいけません。
    再発防止のため、今年の墜落災害
    事例を考えてみたいと思います。

    事例1(平成265月)

    被災者はビルの窓ガラスをブランコ作業で行っていたところ、メインロープが吊り元から外れてブランコ台から墜落した。ライフラインにより地面への墜落は避けられたものの、胴ベルト型安全帯で宙吊り状態となった。被災者の救出には約1時間を要し、搬送先の病院で死亡が確認された。

    再発防止対策は、「フルボディーハーネスの採用」になりました。しかしブランコ作業は、保護具の機能をアップしただけで解決する低リスクの作業ではありません。今回は、消防が出動して救助するまでに約1時間を要した点に着目する必要があります。被災者は、医師の診断で、窒息死とのことですが、人は意識不明の状態で宙吊りになると、サスペンションイントラレンスという症状で、生命の危険にさらされます。したがって救助に1時間はかけすぎで、レスキューの世界では事実上救助できないとみなされます。産業用ロープアクセスは、現場の同僚による救助訓練が必須科目です。ブランコ作業もまた同様の作業なのですから、救助計画を練る必要があると思われます。補足しますが、消防のレスキューは一般市民が対象で、高いところから下降する特殊部隊は対象外です。消防にブランコ作業を想定した救助訓練なんてものはありません。
    また、「メインロープが吊り元から外れてブランコ台から墜落した」のが事故の直接原因ですから、ロープの取り付け方の安全対策も急がれます。

    事例2(平成266月)

    8階建てビルの窓ガラス清掃の作業のため、6階ベランダからブランコ作業でロープの移設準備中に墜落し、下方にいた労働者に激突した。墜落した労働者と激突された労働者の2名が死亡した。

    この現場は、屋上から下降する普通のブランコ作業ではありません。雑居ビルで、最上階のオフィスのベランダから下降する、ちょっと変わったブランコ作業です。ベランダは、それぞれのオフィスで区切られていますから、作業者は一つ一つオフィスを経由してベランダに出なければなりません。これでは作業者の移動に時間がかかりすぎ、ロス率が高い作業になってしまいます。ロスタイムはムダであり、企業にとってはリスクです。でも、ヒトがムリをすることによって低減可能なリスクでもあります。むろん、こんなリスクアセスメントは褒められたものではありませんが、成功すれば結果オーライです。どういうことかというと、作業者は、時間短縮のため、ベランダからベランダへと障害物をまたぐように移動します。安全帯が使える環境ではありませんから、墜落すると危険です。作業者は落ちないように注意して高いリスクに挑みます。しかし、誰しも魔がさすことがあります。とうとう起こるべくして墜落災害は発生してしまいました。もう少し説明すれば、作業のロスタイムと作業者の墜落を天秤にかけたら、ロスタイムのほうが重かった… 生産を第一と考え、作業者の安全確保は後回しにしなければならない事情があった… ということでしょう。現場責任者は、いつも事故が起きる可能性を心に留めていたのではないでしょうか。だからとっさに墜落した人を受け止めに入ることができた… とても真似はできません。あらためてご冥福を祈ります。

    事例3(平成2611月)

    ビル屋上の通路の足場板に、メインロープとライフラインを共に固定し、窓ガラス清掃をブランコ作業で行っていたところ、足場板が固定されていた鉄骨から外れ、足場板ごと墜落した。

    この事故はインターネットで多くの情報が流れたので、あらためて言うまでもありませんが、ロープを取り付けていたキャットウォークのグレーチングが吹っ飛んだものです。十分な強度がない部材を、ロープの支点に使用したのが事故の原因です。支点の選択は、リスク管理上、ないがしろにできない重要なポイントです。IRATAでは、支点の選択やロープの取り付けはレベル3が計画し、レベル2が行います。レベル1は、取り付けられたロープで作業することしか許されません。しかしブランコ作業の作業者は、ベテランでもその技術はIRATAレベル1に及びません。ブランコ作業の法制化が進んでいますが、ブランコ作業に従事する作業者も、IRATA同様、初級、中級、上級と、技量によって階級を分け、責任範囲を明確にする必要があると思われます。ともかく支点の選択は、作業者にまかっせっきりはいけません。会社がちゃんと管理する必要があります。

    ご安全に

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