FTGロープアクセス

  • リスクアセスメント担当者養成研修に参加して-3

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    写真2:カムロック式の墜落阻止器具
    写真2:カムロック式の墜落阻止器具

    墜落阻止器具がカムロック式(写真2参照)の場合

    2008年以降、現場でよく見かけるようになったのがカムロック式の墜落阻止器具です。これはEN12841-Aという欧州規格のロープアクセスのデバイスです。保護具ながら、オンロープの作業においては、工学的対策に数えられます。しかしカムロック式の墜落阻止器具は総じて、器具をつかむとロープがロックされず、滑ってしまい、墜落した作業者が地面にたたきつけられる可能性を秘めています。参考までに、安全帯の規格によるグリップ式墜落阻止器具もカムロック式ですから、同じリスクがあります。

    また、下降の際にロープに引っかかることがよくあり、下降がわずらわしくなります。そこで気の利く作業者は、引っかからないようにカラビナを上方へ持ち上げたまま下降するテクニックを習得しました。早い話が、安全装置を外すことを覚えたのです。便利なので、あっという間に広まりました。しかし、案の定相次いで墜落事故が発生し、今年、北海道と東京でケガ人が出ました。地面に近いところからの墜落だったので、一人は休業4日以上の重傷、もう一人は精密検査の結果、問題はありませんでした。それでも会社全体の作業に及ぼしたロスタイムは、さぞかし大きかったものと推察されます。ケガにとどまらず、作業のロスもリスクです。これらの残留リスクを見積もると、次のようになります。

    可能性1×結果3=3:リスクレベルⅡ(速やかなリスク低減措置が必要である)

    危険の源はデバイスそのものですから、これを摘み取り、さらに安全性の高いデバイスと交換することで、リスク低減を図ります。

    つづく

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  • リスクアセスメント担当者養成研修に参加して-2

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    写真1:スライド
    写真1:スライド

    墜落阻止器具をリスクアセスメントする

     「ブランコ作業の墜落防止システム・墜落阻止器具」をテーマにリスクアセスメントを行いました。これは講師の先生に「模範的な解答である」と言われたので、参考までに以下に記します。

    1. 危険性または有害性と発生のおそれのある災害

    メインロープ側のトラブルで、墜落が発生したとき、バックアップの墜落阻止器具が正常に機能せず、ライフライン上を滑ってしまい、作業者が地面にたたきつけられて死亡しました。墜落の原因はメインロープ側にあります(ロープの取り付けを含む)が、墜落が阻止できなかったという点で、バックアップであるライフライン側の問題は見逃せません。危険の源は、墜落阻止器具です。

    1. 既存の災害防止対策とリスクの見積り

    墜落阻止器具がスライド(写真1参照)の場合

    作業者を墜落から保護するデバイスとして、ブランコ作業では長い間スライドが頻用されていました。「安全帯の規格」が安全のよりどころだったからです。なぜ「安全帯の規格」なのかというと、80年代前半、ブランコ作業のマニュアル作成に当たったGCAの先輩方が、東京労働基準局(今の東京労働局)に相談したことに端を発します。今でいうところのリスクアセスメントを実施したのです。リスクの低減対策に「必要に応じて行政方に相談する。または専門家に意見を求める」という項目があります。法を遵守させるのが行政官ですから、「安全帯の規格」に従うようご指示されました。

    しかし時は流れて、古い技術は陳腐化します。19年前になりますが、GCAが安全帯メーカーの協力で実施したスライドの実験で、たかだかカラビナ1個の倍落下(10㎝×2)で墜落が止まらず、重さ75kgの落下体が地面にたたきつけられてしまい、みなさんあっけにとられたことがありました。さらには、ブランコ作業でメインロープがほどけて墜落したさい、確実にスライドを使用させていたにもかかわらず、作業者が地面にたたきつけられ、死亡災害に至った事故も発生しました。スライドは、かなりの確率で、墜落が止まらないことがあります。本来スライドは、ゴンドラなど作業者がちゃんと足で立てる環境で使用する第2の墜落防止措置です。作業者がロープに支えられた垂直の作業環境で使用することは、まったくの想定外です。ブランコ作業に専用の器具がなかった時代には、それでも仕方がありませんでした。

    可能性2×結果3=6:リスクレベルⅢ(直ちに解決すべき重大なリスクがある)…

    それでもライフラインを使用しない一本吊りと比べたら、リスクは低く抑えられています。

    可能性3×結果3=9:リスクレベルⅢ(直ちに解決すべき重大なリスクがある)

    どちらもリスクレベルはⅢですが、ライフラインとスライドで9から6まで下がったのが3×3のリスク配列で分かります。

    つづく

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  • リスクアセスメント担当者養成研修に参加して-1

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    今後は、各業種専用のテキストが必要だと痛感した次第
    今後は、各業種専用のテキストが必要だと痛感した次第
    修了証をいただいてリスクアセスメントができるようになった思うのは錯覚
    修了証をいただいてリスクアセスメントができるようになった思うのは錯覚

    以下は、東京GCA の月刊誌「GCAEYES」2014年12月号に投稿したものです。

    はじめに

     リスクアセスメント担当者養成研修というセミナーがあるので、協会(東京GCA)トレーナーは参加するよう協会理事の依頼を受け、参加しました。このセミナーは、中小零細規模の事業場で労働災害が多発していることから、従業員50人以下の企業にもリスクアセスメントが定着するよう、厚生労働省が一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会に委託したものです。講習は2日に渡りました。

     当節、リスクアセスメントは人気がありません。私は職業柄、日本各地の高所作業の現場へ出張する機会がありますが、リスクアセスメントを積極的に実施している事業場に出会ったことがありません。「リスクアセスメントですかぁ?? 以前はやっていましたけどねぇ…」そんな回答ばかりです。リスクアセスメントが途中で止まってしまうのには、何か原因があるように思われてなりません。今回のセミナーは、その原因をあらわにできた点で、素晴らしい機会であったと思います。

    はなからお手上げのリスクアセスメント

     9月30日、東京都中小企業振興公社秋葉原庁舎において、1回目のセミナーが開催され、16名の協会員が受講しました。机上講習とグループ討議が行われ、最後に宿題が出ました。宿題は2回目のセミナーで使用する課題で、任意のテーマを3×3のリスク配列を用いて、リスクレベルの低・中・高をそれぞれⅠⅡⅢで見積もるものでした。2回目は場所を協会事務局会議室に移し、1118日と21日に参加者を分けて開催されました。18日は参加者4名、欠席2名。21日は参加者7、欠席3名。

    2回のセミナーは、宿題のリスクアセスメントを全員で検討するグループ討議でしたが、私以外の受講者のみなさんは、いずれも作業環境をテーマにしたリスクアセスメントを提出されました。(私は18日参加したので、21日は不明)

    「墜落防止のために、親綱の設置が必要なのに、その親綱を取り付ける設備がない」

    「屋上の高いフェンスを乗り越えるのは危険だから、フェンスに扉が必要である」

    といった内容です。これらは、設計施工の段階でちゃんとメンテナンス計画を立て、必要なモノづくりをしていれば、生じるはずがないリスクですが、建物が完成してからでは手の施しようがない難問です。作業会社はもちろんのこと管理会社にも解決できっこありません。はなからお手上げとわかってアセスメントをやるのは空しいものです。

    採れる対策を要約すると

    「バリケードを張って作業区画を確保する」

    「見張りを増やして監督レベルを上げる」

    「作業者に訓練を施す」

    「指さし呼称の実施」

    など管理的対策と

    「有効な墜落防止措置を図る」

    といった保護具の使用に限られました。

    リスクアセスメントの手法では、リスク低減措置の優先順位を

    1. 安全な作業方法に変更する“本質安全化対策”
    2. 不安全な作業環境を改善する“安全防護対策”
    3. 立入禁止区域の措置や研修・実技訓練を行う“管理的対策”
    4. 保護具を使用する“保護具使用対策”

    の順番で進めるのが普通ですが、管理的対策と保護具の使用はヒト対策で、低減措置としては最低のヒエラルキーです。リスクは満足に低減しません。有効な工学的モノ対策が採れないので、ヒト対策に頼るしかないのです。でも、ヒトはムリをします(できる・させる)から、ヒューマンエラーのリスクがついて回ります。ムダな人件費も見逃せないリスクです。作業のムラもリスクです。これら残留リスクの低減措置はKY・5Sになりますが、ハイリスクな作業でリスクアセスメントの成果がKY・5Sであるならば、期待外れと指摘されても仕方がありません。協会員のみなさまは、こうなる現実をよく理解されておられ、リスクアセスメントの結果がKY・5Sにしか収まらないことを認識していることが分かります。

    リスクアセスメントを成功させるために必要なこと

      作業会社の間で作業環境がテーマにのぼると、リスクアセスメントは座礁した船のごとくに行き足を止めてしまいます。難破船にしないためには、建物の設計段階から参画してリスクアセスメントを行い、作業のインフラを設計し、メンテナンス計画を立てる必要があります。私が2年前まで在籍していたガラスクリーニングの専門会社は、会社設立の早い時期からガラスクリーニングを清掃業務から分離して発注するよう発注者側に提案し、実現させてきました。そして作業環境の改善のお願いを、管理会社を通さず、直接発注者に訴えることができる立場を確保しました。某電話会社、某鉄道会社、某生命保険会社の社屋で、ブランコ作業のインフラが完璧なのは、その成果です。また幾つかのタワーと名のつく大型ビルで、ゴンドラが設置できない複雑な吹き抜けには、ちゃんとロープを取り付けるインフラがありますが、それも設計施工段階から参画し、リスクアセスメントを行った成果にほかなりません。ただしインフラは、使いこなす技術がないと宝の持ち腐れです。

     補足しますが、大型物件のインフラ整備はリスクアセスメントの成果で、作業手順書と対を成す重要な企業秘密です。入札の企画提案コンペのさい、提出を命じられ、公開せざるをえない運命を呪ったものです。しかし同じことができる競合相手がいなかったのもまた事実です。これからは、誰もがインフラを使いこなせるよう、技能レベルを向上させる必要があります。これもリスクアセスメントの一つです。業界の地位向上にかならず役立ちます。

    つづく

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