「もやい結び」がマニュアルにならないもう一つの理由


過去に「もやい結びが、危険といわれる理由」について書いたことがありました(2015年9月10日の記事)が、一昨日、もやい結びは船舶を係留できるほどの高い信頼性を有し、正しく使えば何の問題もないはずです。独自の優位性もあり(負傷者自ら片手で結べるなど)、やはり正しい使い方を知っておくべきものだと思います。率直な感想として、この記事の最後は『正しい解説が載ることを願ってやみません』
というご投稿を頂きました。

サツマ編み

なるほど十分な強度があって、片手で結べて、正しく使えたら幸いです。
でも、「もやい結び」に限らず、作業中にロープの結び目が解けて作業者が墜落した死亡災害は、これまで何度も発生してきました。
高所作業ですから、墜落災害の結果は悲惨で、リスクの大きさは最大です。
それでは、なぜロープが解けたのでしょうか?
私は、結んだから解けたのだと思います。
結ぶ必要がないロープが、独りでに解けることはありません。
どういうことかというと、ロープの末端に「解けない輪」を作って使用すればよいのです。
解ける恐れは生じません♬
昔から三つ縒りロープは「サツマ編み」で輪を作り、使用されてきました。
この「サツマ編みによる輪」も結索術の一つですが、一旦結んだ「サツマ編み」は解くことなく使用できます。
これが私の言う「結ぶ必要がないロープ」です。
カーンマントル構造のロープは「サツマ編み」ができないので、メーカーは縫製処理による輪を作り、ユーザーに提供しています。
これも「結ぶ必要がないロープ」ですが、「サツマ編み」及び「縫製処理」による輪がないロープのほうが一般的で、「もやい結び」等の結索が必要なのは紛れもない事実です。
だからといって、作業中に何度も「結ぶ・解く」を繰り返したら、いつかヒューマンエラーによって、ロープが解ける事故が発生してもおかしくありません(過去の事例が証明しています)
作業開始時に結んだロープは、作業終了まで解かないほうがリスクが低いのです。
ロープの端に輪ができる結索で、作業中に解く必要がないモノの代表格は、セブンノット、エイトノット、ナインノット、テンノットの4つです。
セブンノットは「二重ひと結び」のことですが、大きな負荷がかかると結び目が固くなってしまい、解けなくなってしまうので、実際に使用されることはありません(ガイド結びといわれ登山で使用されていた時代もあった)
エイトノットは「二重8の字結び」で、セブンノットに半ひねり加えて結び目が固くなるのを防止したもので、今日広く使用されています。
ナインノットは「二重8の字結び」に半ひねり加えたもの、テンノットは「二重8の字結び」に一ひねり加えたもので、共に結び目が固くなるのを防止するのが目的で、ロープに大きな負荷がかかるレスキュー等で使用されます。

さて本題の「もやい結び」です。

「もやい結び」はロープの端に輪を作るのが目的の結索ではありません。
ロープを支持物に直接取り付けるための結索です。
作業中に何度も「結ぶ・解く」を繰り返すときに有効です。
コネクタ(カラビナ)が不要な分、おカネもかかりません。
しかし前述の「作業中に解く必要がない結索」と比べたら、ヒューマンエラーによる事故が発生する可能性は高いのです。
同じ目的で、複数の手法がある場合、リスクの低いほうを採用するのがリスクアセスメントというものです。
ですから「もやい結び」は、ロープ高所作業のマニュアルから除外されて当然なのです。
麻・棕櫚・木綿がロープの素材だった時代、結びの王様といわれた「もやい結び」は、ナイロンが素材の主流になった今日、カビの生えた結索術になってしまいました。事実、人体確保で「もやい結び」をそのまま使用する人はいません。
作業余端をくくって補強する方法がありますが、何かを加えないと安全が確保できない結索は、マニュアルとして推奨できるものではありません。
「もやい結び」は「ブーリン結び」とも言われ、「変形ブーリン」という名前で、形を変えて今に伝わっています。
きわめて合理的な結索ですが、教えるのが難しく、マスターするのも困難なので厄介です。
別名タックドブーリン(鋲打ちブーリン)ともいいますが、多くの人は鋲を打って補強する技を知らないようで、結び目がゆるゆるなのをよく見かけます(写真の白いロープの結索)
これでは、何のための「変形ブーリン・タックドブーリン」なのか分かりません。

今月のビッグロック日吉店におけるロープアクセストレーニングは25日です。
奮ってご参加願います。


“「もやい結び」がマニュアルにならないもう一つの理由” への3件のフィードバック

  1. 山本康典

    ただ単にもやい結びを全否定したいだけの記事にしか思えません
    前の記事にコメントでケンカを売られたから買ったという印象の幼稚さが垣間見えます

    「結んだから解けた」とか下らない屁理屈を聞きたいわけではありません、このブログに来る人はみな結びの本質をプロの視点から聞きたいのです

    「何かを加えないと安全が確保できない結索は、マニュアルとして推奨できるものではありません。」とありますが、もやい結びに代わってメインとなったエイトノットも加えた結びです、直前にご自身で書いたことを忘れてしまったのでしょうか

    一秒一瞬を争うレスキューや消防の現場ではもやい結びは半結びをプラスして未だに現役です、エイトノットを結んでたら間に合いません
    それとも貴方はもし災害に遭われてレスキュー隊に救助される時に「エイトノットで人体確保を」などとリクエストでもなさるのでしょうか?

    この記事は結局「車に乗ると事故を起こすから乗らない」と思考停止しているのと同じです
    ぜひ広い視野で結びの本質を見てみて下さい

    1. shin

      山本康典様 ご投稿ありがとうございます。
      当ブログは、産業用ロープアクセス・ロープ高所作業における安全作業・墜落災害防止を目的としています。
      使用するロープはEN1891の適合のセミスタティックロープで、三つ縒りロープや八つ打ちロープは対象外です。
      また、消防のレスキュー隊などの結索技術は対象外であることを了承ください。
      クライミングという遊びでは、私はもやい結びを多用していますが、この場合、補強を加えています。
      8の字結びは、オーバーハンドノットに一ひねり加えた結びですが、この場合の一ひねりは補強ではありません。
      それは作業後、結び目が固くなりすぎるのを防止するためです。
      EN1891以外のロープを産業で使用する場合、8の字結びで輪を作るのがマニュアルです。
      余談ながら中間の任意の位置に輪を作るには、インラインフィギュア8も使用されますが、マニュアルはアルパインバタフライです。

    2. おおにし

      消防関係者ですけど、消防でもやい結びが現役なのは50年変わってない操法だけで、
      いまのセミスタティックロープで、もやいを第一選択にする消防士はいませんよ。
      より高度な技術のなかで変形もやいを使う場面はありますけど、基本はエイトノットです。
      ちなみに、欧州の消防ではもやいは禁止、アメリカでもエイトを先に習います。
      操法自体、古いこともありますが、火災の中で一分一秒を争う場合の技術であり、安全性を下げてスピードを優先したものです。
      登山や高所作業はもちろん、ふつうの救助活動では安全・確実が最優先です。

      >「車に乗ると事故を起こすから乗らない」と思考停止
      いいえ、もやいの忌避は「シートベルトとエアバッグがなので義務化した」ということです。
      リスクがあるとわかったら安全対策をし、より安全な手段を用いるのがプロですよ。

      もう少し、結索や安全管理について調べられることをお勧めします

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