改正省令、労働安全衛生規則第539条の7は、「事業者は、ロープ高所作業を行うときは、当該作業を行う労働者に安全帯を使用させなければならない。」「安全帯は、ライフラインに取り付けなければならない。」と定めています。
厚生労働省は、安全帯の規格改正(平成14年)以来、フルハーネス(2種安全帯)の使用を奨励しており、将来的に全産業でフルハーネスを使用させたい狙いがあります。
したがって厚生労働省が、今般の省令改正で、胴ベルト型(1種安全帯)の使用を奨励するはずがなく、第539条の7でいうところの安全帯は、当然フルハーネスを指すと推察されます。
しかるに、ロープ高所作業特別教育用テキストは、いずれもフルハーネスを使用する旨の記述が欠如しています。
わずかに、構造及び各部の名称を記すに留まるか、写真で紹介する程度で、肝心な使用方法には触れていません。
これはどういうことでしょうか?
コンプライアンスに抵触するとまでは言わないまでも、不適切であると言わざるをえません。
技術的に怪しい記述は、さらに続きます。
垂直面用ハーネスをライフラインに接続するとか、身体保持器具はブランコ台であるとか…
なぜでしょう?
① 垂直面用ハーネスは、胴ベルト型と同じ1種安全帯に属するため、ライフラインに接続できる。
② 垂直面用ハーネスは、胴ベルト型と同じ1種安全帯に属するため、身体保持器具には使用できない。
③ 安全帯は、身体保持器具にならないので、ブランコ台を身体保持器具とする。
これが出版元のロジックです。
ところが当該特別教育用テキストは、のり面保護工事においては、垂直面用ハーネスと同じ1種安全帯に属する傾斜面用ハーネスの バックサイドベルトが身体保持器具であると イラスト入りで紹介していたりします。
これは合点がいきません。
垂直面用ハーネスは、胴ベルト及び腿ベルト(レッグループ)から成る構造により、性能はバックサイドベルトに勝り、垂直面はもとより、傾斜面でも、足のつかない空中においても、身体保持が可能な安全帯です。
バックサイドベルトを身体保持器具と認めながら、垂直面用ハーネスを身体保持器具と認めないテキストは、ロジックが支離滅裂です。
こんな稚拙なテキストを、中央労働災害防止協会には採用してほしくありません。
まちがっても、11月7日から始まるロープ高所作業インストラクター養成コースにおいて、参考資料や配布資料とすべきではないでしょう。
さもないと、必ずや将来に禍根を残すこと間違いありません。
安全帯の規格が改正された平成14年、国産第一号の垂直面用ハーネスは、ペツルの登山用シットハーネスをまねて制作されました。
行政立会いの下で行われた垂直面用ハーネスの墜落人体実験は、私が実験台でした。
垂直面用ハーネスは、シットハーネスです。
シットハーネスは、身体保持が可能な安全帯です。
最後に、省令を遵守した実用的手法(のり面ロープ高所作業を含む)を以下に示します。
① フルハーネスに墜落阻止器具を取り付け、ライフラインに接続する。(安全帯の使用・墜落からの保護)
② 垂直面用ハーネスに下降器具または高登器具を取り付け、メインロープに接続する。(身体保持・下降器具は安全装置付き)
こうして垂直面用ハーネスとフルハーネスを重ね着することにより、「2重の保護」が可能になります。
また、この「2重の保護」により、はじめて日本のロープ高所作業は、国際標準化機構がISO-22846で規定する「ダブルプロテクションの原則」にも準拠することになるのです。
技術は日進月歩です。
今日では一体型のフルボディーハーネスが普及しています。
それはEN813適合のシットハーネスと、EN361適合のフルハーネスを合体させた、ロープ高所作業用ハーネスです。
欧州規格の適合品ですが、強度等は「安全帯の規格」を十分にクリアしています。
もはや、安全帯を重ね着する必要はありません。
いい時代になりました。
ご安全に
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