6月18日 厚生労働省専用12会議室(中央合同庁舎第5号館12階)において、「第91回労働政策審議会安全衛生分科会」が開催されました。
この分科会が、ロープ高所作業 法制化の最終諮問になるというので、傍聴に行ってきました。
「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱について」というタイトルで、厚生労働省の田中安全課長から、以下のご説明がありました。
1.改正の趣旨
ロープで労働者の身体を保持し、ビルの外装清掃やのり面保護工事などを行ういわゆる「ロープ高所作業」については、従前よりビルメンテナンス業や建設業で行われているが、当該作業において、ロープの結び目がほどける、ロープが切れる等により墜落した死亡災害が発生している。このようなことから「ブランコ作業における安全対策検討会」(厚生労働省労働基準局安全衛生部長開催)報告書(平成27年4月)を踏まえ、ロープ高所作業における労働災害を防止するため、労働安全衛生規則の改正を行う。
参考資料:過去5年間(平成21年~26年)で発生した死亡災害は、ビルメンテナンス業が13人、建設業で11人、合計24人 このうち23人が「墜落・転落」
2.改正の概要
(1)ロープ高所作業における危険の防止に係る規定の新設
※ロープ高所作業の定義:
高さが2メートルの箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、いわゆるブランコなどの昇降器具(作業箇所の上方にある支持物にロープを緊結してつり下げ、当該ロープに労働者の身体を保持するための器具(以下「身体保持器具」という)を取り付けたものであって、労働者自らの操作により上昇し、又は下降するものをいう。)を用いて、労働者が当該器具により身体を保持しつつ行う作業。ただし、勾配が40度未満の斜面における作業は含まれない。
① ライフラインの設置
身体保持器具を取り付けるための「メインロープ」以外に、安全帯を取り付けるための「ライフライン」を設けること。
② メインロープ等の強度等
ア、メインロープ等については、十分な強度を有するものであって、著しい損傷、摩耗、変形又は腐食がないものを使用すること。※メインロープ等:メインロープ、ライフライン、これらを支持物に緊結するための緊結具、身体保持器具、これをメインロープに取り付けるための接続器具
イ、メインロープ、ライフライン、身体保持器具については、以下の措置を講じること。
A)メインロープ及びライフラインは、それぞれ異なる堅固な支持物に、外れないよう確実に緊結すること。
b)メインロープ及びライフラインは、ロープ高所作業に従事する労働者が安全に昇降するため十分な長さとすること。
c)突起物等により、メインロープ又はライフラインが切断するおそれのある個所には、覆いを設ける等の切断を防止するための措置を講ずること。
d)身体保持器具は、メインロープに接続器具を用いて確実に取り付けること。
③ 調査及び記録
あらかじめ、作業を行う場所の状況等を調査し、その結果を記録すること。
④ 作業計画
あらかじめ、③により知り得たところに適応する作業計画を定め、関係労働者に周知するとともに、当該作業計画により作業を行うこと。作業計画は、作業の方法や順序等の事項が示されていること。
⑤作業指揮者
作業を指揮する者を定め、その者に④で定めた作業計画に基づき作業の指揮を行わせるとともに、②のイの措置が講じられているか否かの点検等を行わせること。
⑥ その他
ア、安全帯の使用
イ、保護帽の着用
ウ、作業開始前点検
(2)特別教育を必要とする業務の追加
事業者は、労働者をロープ高所作業に係る業務に就かせるときは、当該業務に関する安全のための特別の教育を行わなければならないこととする。
3.施行日
平成28年1月1日。ただし、特別教育については平成28年7月1日。
4.経過措置
下記以外の作業については、所要の措置を講じた場合に限り、当分の間、2(1)①は適用しない。
下記:a)ビルクリーニングの業務に係る作業、b)のり面保護工事に係る作業
※ 所要の措置:以下の(ⅰ)及び(ⅱ)
(ⅰ)メインロープを異なる2以上の堅固な支持物と緊結すること。
(ⅱ)メインロープが切断するおそれのある個所との接触を避ける措置、それが困難な場合には(ⅰ)の他に当該箇所の下方にある堅固な支持物にメインロープを緊結すること。
(要は、ディビエーションとリアンカーによるロープの取り付けは、当分の間、ライフラインの使用を免除するということです。 FTG記)
上記の田中安全課長のご説明のあと、労働者代表の新谷委員(日本労働組合総連合会総合労働局長)から、次のようなご意見が上がりました。
死亡災害の多さに驚く。
信じられない現実である。
労働安全衛生規則の改定案は妥当なものであると思う。
しかし、ライフラインは命綱である。
経過措置として命綱のない作業を認めるというのはいかがなものか
出来るだけ早く経過措置の解消に努められたい。
これに対し、田中安全課長のご回答は、
ロープ高所作業は、ビルの外装清掃やのり面保護工事以外にも、橋梁点検や風力発電機のメンテナンスで使用されており、墜落死亡災害が発生していないことから、今回の経過措置に至ったものである。
今後は広く調査を行い、経過措置の解消に努めたい。
最後は、土橋分科会長(東京大学大学院工学系研究科教授)が締め、反対意見なしということで、労働安全衛生規則の改定(ロープ高所作業の法制化)が可決されました。
補足しますが、特別教育は学科4時間、実技3時間とのことです。学科はともかく、3時間の実技は十分ではありません。以下は実技の内容です。
ロープ高所作業の方法:2時間 (ロープ高所作業の方法、墜落による労働災害の防止のための措置、安全帯及び保護帽の使用方法)
器具の点検:1時間(器具の点検及び整備の方法)
実技といっても、実際にロープの登下降をやるわけではなさそうです。
これでは不十分なので、各社、各団体による追加教育が必要になると思われます。
また、特別教育のインストラクターは誰がやるのか、どこでやるのか、よく分からないことはまだまだあります。
くわえて、「メインロープとライフラインは、それぞれ異なる支持物に緊結すること」と定められましたが、実際には、そんなロープの取り付け方をする必要がない作業環境が多く見られます。
逆に不安全で、ライフラインが横ズレによって切断するという、高いリスクが生じる場合が少なくありません。(ベーシックアンカーやYハングといった専門技術の教育が不可欠です。)
「支持物の破断」と「メインロープのほどけ」しか見ていないのではないかと推察されます。
くりかえしますが、ライフラインに及ぼす衝撃荷重と横ズレのリスクを低減する必要ががあります。
エネルギーが蓄積されたロープの横ズレは危険で、切断の瞬間は一気にエネルギーが放出されるため、まるで爆発です。
いろんなところに問題が見えますが、ともかく国内においてロープ高所作業は大きな一歩を踏み出したところです。
ご安全に
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