今年の墜落災害事例に学ぶ


気が付けばはや師走、今年は事故の多い年でした。
都内のビルの窓ふきの現場で、墜落災害が3件発生し、被災者は4人でした。
これ以上事故を出してはいけません。
再発防止のため、今年の墜落災害
事例を考えてみたいと思います。

事例1(平成265月)

被災者はビルの窓ガラスをブランコ作業で行っていたところ、メインロープが吊り元から外れてブランコ台から墜落した。ライフラインにより地面への墜落は避けられたものの、胴ベルト型安全帯で宙吊り状態となった。被災者の救出には約1時間を要し、搬送先の病院で死亡が確認された。

再発防止対策は、「フルボディーハーネスの採用」になりました。しかしブランコ作業は、保護具の機能をアップしただけで解決する低リスクの作業ではありません。今回は、消防が出動して救助するまでに約1時間を要した点に着目する必要があります。被災者は、医師の診断で、窒息死とのことですが、人は意識不明の状態で宙吊りになると、サスペンションイントラレンスという症状で、生命の危険にさらされます。したがって救助に1時間はかけすぎで、レスキューの世界では事実上救助できないとみなされます。産業用ロープアクセスは、現場の同僚による救助訓練が必須科目です。ブランコ作業もまた同様の作業なのですから、救助計画を練る必要があると思われます。補足しますが、消防のレスキューは一般市民が対象で、高いところから下降する特殊部隊は対象外です。消防にブランコ作業を想定した救助訓練なんてものはありません。
また、「メインロープが吊り元から外れてブランコ台から墜落した」のが事故の直接原因ですから、ロープの取り付け方の安全対策も急がれます。

事例2(平成266月)

8階建てビルの窓ガラス清掃の作業のため、6階ベランダからブランコ作業でロープの移設準備中に墜落し、下方にいた労働者に激突した。墜落した労働者と激突された労働者の2名が死亡した。

この現場は、屋上から下降する普通のブランコ作業ではありません。雑居ビルで、最上階のオフィスのベランダから下降する、ちょっと変わったブランコ作業です。ベランダは、それぞれのオフィスで区切られていますから、作業者は一つ一つオフィスを経由してベランダに出なければなりません。これでは作業者の移動に時間がかかりすぎ、ロス率が高い作業になってしまいます。ロスタイムはムダであり、企業にとってはリスクです。でも、ヒトがムリをすることによって低減可能なリスクでもあります。むろん、こんなリスクアセスメントは褒められたものではありませんが、成功すれば結果オーライです。どういうことかというと、作業者は、時間短縮のため、ベランダからベランダへと障害物をまたぐように移動します。安全帯が使える環境ではありませんから、墜落すると危険です。作業者は落ちないように注意して高いリスクに挑みます。しかし、誰しも魔がさすことがあります。とうとう起こるべくして墜落災害は発生してしまいました。もう少し説明すれば、作業のロスタイムと作業者の墜落を天秤にかけたら、ロスタイムのほうが重かった… 生産を第一と考え、作業者の安全確保は後回しにしなければならない事情があった… ということでしょう。現場責任者は、いつも事故が起きる可能性を心に留めていたのではないでしょうか。だからとっさに墜落した人を受け止めに入ることができた… とても真似はできません。あらためてご冥福を祈ります。

事例3(平成2611月)

ビル屋上の通路の足場板に、メインロープとライフラインを共に固定し、窓ガラス清掃をブランコ作業で行っていたところ、足場板が固定されていた鉄骨から外れ、足場板ごと墜落した。

この事故はインターネットで多くの情報が流れたので、あらためて言うまでもありませんが、ロープを取り付けていたキャットウォークのグレーチングが吹っ飛んだものです。十分な強度がない部材を、ロープの支点に使用したのが事故の原因です。支点の選択は、リスク管理上、ないがしろにできない重要なポイントです。IRATAでは、支点の選択やロープの取り付けはレベル3が計画し、レベル2が行います。レベル1は、取り付けられたロープで作業することしか許されません。しかしブランコ作業の作業者は、ベテランでもその技術はIRATAレベル1に及びません。ブランコ作業の法制化が進んでいますが、ブランコ作業に従事する作業者も、IRATA同様、初級、中級、上級と、技量によって階級を分け、責任範囲を明確にする必要があると思われます。ともかく支点の選択は、作業者にまかっせっきりはいけません。会社がちゃんと管理する必要があります。

ご安全に


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