ビルのガラスクリーニングの現場で、オーバーハングのために、ロープでは容易に寄りつけない場所があります。
特殊なゴンドラ設備が常設されていれば、作業に問題はありませんが、ゴンドラ設備は初期投資と定期検査に費用がかさむので、建物所有者にとっては、できるだけ避けたいというのがホンネでしょう。
そこで登場するのが、通称オーバーハングライダーといわれる、巨大な 『てんびん秤』 式の リギング器材です。
リギングとは、ロープのセッティングのことですが、オーバーハングライダーの設置には、ホーリング技術が欠かせません。
しかしホーリングは、ロープアクセスの中級以上のテクニックであり、稚拙な運用は不安全なので、IRATAでも初級者教育では教えません。
当然、ブランコ職人にホーリングを求めるのは無謀です。
ブランコ作業マニュアルに、ホーリングの技術解説はありません。
じっさい、屋上のさまを見れば、無謀なのは一目瞭然です。
また、カウンターウエイトのホーリングは、とても単純なものなのに、複数の滑車によるメカニカルアドバンテージを使ったがために、かえって複雑になっています。
しかも、歯のついたロープクランプ (ハンドルアンセンダー) に荷重がかかりっぱなしになるため、回避すべきリスクが生じています。
ホーリングシステムをよく理解していない人が、試行錯誤を繰り返したすえに、あらぬ結果にたどり着いたものと推察されます。
さて、都内某所のメインストリートに面した建物で、『オーバーハングライダーによるガラスクリーニングが、かなりヤバイ』 という噂が、ロープアクセステクニシャンのあいだで、近ごろ話題です。
具体的に、どうヤバイのか、私は見ていないのでわかりませんが、ロープを登るのに、どうもモーターを使用するらしい …
モーターはバッテリーで動くわけですが、聞くところによれば、そのバッテリーの容量が思いのほか小さいようです。
もし、ロープの登下降のさい、バッテリーが切れたら、どうなるのでしょうか?
当然、救助されるまでのあいだ、作業者は宙吊りです。
消防のレスキュー隊に救助を要請しても、想定外の救助活動ですから、大変なことになってしまします。
また、当該モーターが、高所作業を目的に生産されたものなのか、という疑問もあります。
もしかして、レスキュー用… ?
いずれになても、オーバーハングライダーとは、ロープを登らなければ作業できないものなのか??
もしロープを登るとなれば、モーターを使う・使わないにかかわらず、バックアップのセーフティライン(ライフライン)は、正しい位置に設置できるのか?
いろいろ疑問は尽きません。
こうした場合、リスクアセスメントでまずやることは、危険因子の摘み取りが可能かどうかの検討です。
『モーターを使う・使わないにかかわらず、長い距離のロープの登りには、それなりのリスクがともなう。』
『ロープを登ろうとするから、リスクが生じてしまう。』
『ロープを登らなければ、リスクは生じないし、モーターも無用である。』
『作業が下降モードであるならば、オンサイトレスキューは容易である。』
『当該作業は、下降モードで可能である。』
『したがって、モーターなる危険因子は、現場から摘み取ることができる。』
これで事故は、発生する前に防止できますから、理想的なリスクアセスメントといえるでしょう。
こんなことを考えていたら、まあ運良く、九州のほうで、同様のヤバイ現場があるとのデンワ
ふたつ返事で、仮設計画をみなおす支援をOKしました。
9月11日、日本橋のラッッピング撤去が終ったその足で羽田空港にむかい、福岡空港に降り立ちました。
その夜は、親不孝通りのクラブで したたか飲んで、中島みゆきサンのリズム&ブルース『てんびん秤』を熱唱したのはいうまでもありません。
翌日12日、現場に行ったら、じぇじぇじぇじぇじぇ!! じぇの5連発
もう目を覆うばかりのありさま…
ハーネスを正しく装着できない作業者!
ハーネスの各アタッチメントの用途がわからない面々!
絶対にやってはいけないフォールアレスター(墜落阻止器具)の間違った連結!
構造規格の表示がない ハーネス!
(安全の最低基準である 『安全帯』 よりも、当該ハーネスが より安全であることを証明する根拠は、どこにも見当たらなかった。)
保護具の着用も満足にできない作業者に、巨大な 『てんびん秤』 の運用は、危なっかしくってしかたがありません。
安全な用法を教えようと思って来たのですが… ムリ!!
今日は、みなさん見学の位置!
いつもなら、わたしは指一本でガラスをかっぱけるんですが、指図しても動ける人がいないんですから、仕方がありません。 みずからガラスをかっぱいてしまいました。
ひととおり作業が終わり、ちゃんと仮設計画の見直しもできました。
次回からは、安全な方法でリギングできるでしょう。
ロープを登る必要はありませんから、モーターは不要です。
作業者諸君に、ちゃんとロープアクセストレーニングを受けさせるよう、社長さんにはお願いしておきました。
さいごに繰り返しますが、オーバーハングライダーの運用はロープアクセスに限ります。
間違ってもブランコ作業の範疇ではありませんから、そこんとこヨロシクね ♫
ご安全に!
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