有効な墜落防止措置を考える:のり面ロープ高所作業

のり面ロープ高所作業:特別教育の実技訓

のり面ロープ高所作業:特別教育の実技訓練

のり面保護工事におけるロープ高所作業では、胴ベルト型安全帯に組み込まれたバックサイドベルトで作業者の身体を保持します。(そしてメインロープを昇降します。)
ご多分に漏れず当該ロープ高所作業も、今般の改正省令でライフラインの設置が義務付けられました。

いまを遡ること14年前、安全帯の規格改正の折り、安全帯の構造指針においてバックサイドベルトは、垂直面用ハーネスと共に身体保持用の安全帯として3種安全帯に位置づけられていました。(改正後の安全帯の規格は十把一からげで 3種安全帯のカテゴリはなし)
当時、安全帯の規格改正委員会は、ロープ高所作業においては3種安全帯で作業者の身体を保持した場合でも、作業者を墜落から保護する安全帯とライフラインの接続は必須であると考えていました。
東京ガラスガラス外装クリーニング協会は、この考えを重く受け止め、会員各社に、これまで以上にブランコ作業におけるライフラインの設置を呼びかけたものです。
しかし、改正委員の一部から「のり面保護工事においてはライフラインを安全帯に接続すると逆に危険になる」との意見があり、結果、「のり面保護工事においてはライフラインの設置の義務は除外」と決まったのです。
しかるに最初に述べたとおり、省令の改正で、ライフラインの設置が義務付けられることになってしまいました。… いいのかなぁ~?

バックサイドベルト:布製のブランコ台ですな

バックサイドベルト:布製のブランコ台ですな

胴ベルト型安全帯に組み込まれたバックサイドベルト

胴ベルト型安全帯に組み込まれたバックサイドベルト

のり面ロープ高所作業で、ライフラインを安全帯に接続すると、なぜ危険になるのか、説明が必要でしょう。
作業手順を以下に示します。
① バックサイドベルトを、胴ベルト型安全帯に組み込む。
② バックサイドベルトを、「傾斜面用グリップ」(ランヤード2本)でメインロープに接続する。
③ 胴ベルト型安全帯を、「傾斜面用グリップ」(ランヤード1本)でライフラインに接続する。
④ ロープの昇降は、作業者の腕力による。
⑤ 昇降時、作業者は「傾斜面用グリップ」を把持し、メインロープとの接続位置を調節する。
⑥ 昇降時、作業者は「傾斜面用グリップ」を把持し、ライフラインとの接続位置を調節する。

安全帯で墜落が止まった状態:特別教育実技訓練

安全帯で墜落が止まった状態:特別教育実技訓練

安全帯で墜落が止まった状態-2:特別教育実技訓練

安全帯で墜落が止まった状態-2:特別教育実技訓練

安全帯で墜落が止まった状態-3:特別教育実技訓練

安全帯で墜落が止まった状態-3:特別教育実技訓練

おっと! ここでかしこい皆さんは 、⑤と⑥の手順にヒューマンエラーの可能性を発見したのではないでしょうか。
下降時に⑥の手順が遅れると、作業者は安全帯で宙吊りになるか、又はバランスを崩します。
危ないので下降時は、⑤の手順を行う前に⑥の手順を終了させておかなければなりませんが、厄介なことに⑤と⑥の操作は同時に行うことが可能です。

「傾斜面用グリップ」は左右同時に解除が可能

「傾斜面用グリップ」は左右同時に解除が可能

でも、それは墜落防止措置を2つとも解除する行為で、きわめて危険です。
よい子は絶対にやってはいけません!
なるほど! 14年前に先人が、ライフラインの使用を否定した理由がうなずけます。
なぜそんな危ないことができるのかというと、傾斜面という環境では、メインロープに作業者の全体重がかからないので、双方の「傾斜面用グリップ」の機能を瞬時に同時解除できるからなのです。(こんなヒューマンエラーは、ロープに全体重がかかる垂直面では発生しません。傾斜面特有のリスクです。)
作業者が、メインロープにもライフラインにも接続されていない危険な時間は、きわめて短いかもしれませんが、墜落は突然発生します。
そしてヒトは、墜落時、握ったものを放さない… 墜落は止まらない!

だからといって、ライフラインを設置しないわけにはいきません。
すでに省令で命じられたことなのですから…

このヒューマンエラーのリスク低減対策として、「傾斜面用グリップ」を「スライド」(たとえばSSロリップ)に変更したらどうなるか…?
「スライド」は、風力発電機でタワーの梯子を登るときや、仮設ゴンドラの昇降時等において、垂直親綱に用いるデバイスです。
突然の墜落を止めることはできないので、ロープ高所作業で発生する墜落からは、作業者を保護することはできません。
繰り返しますが「スライド」(たとえばSSロリップ)は、両手を放してロープに吊り下がった状態で発生する突然の墜落は想定外で、ビルのカラスクリーニングの現場では、すでに墜落死亡災害が発生しています。
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上記のロジックを、霞が関はちゃんとわかっていました。
そうでなければ、リーフレットと通達で「ライフラインとしてリトラクタ式墜落阻止器具を用いても差支えない」という型破りなメソッドを打ち出すはずがありませんから。びっくりしましたよ…
リトラクタ式墜落阻止器具とは、安全ブロックのことです。その手があったか…
安全ブロックは、内蔵されたロープの長さに限度があったり、角度が変わると正常に機能しなかったりと、運用制限はありますが、良い条件の下では優れた墜落防止機能がはたらきます。… 危険な衝撃荷重は発生しません… さすがです。

モバイルフォールアレスター:アサップロック

モバイルフォールアレスター(アサップロック)でリスクを低減

リスク低下措置後の作業:特別教育実技訓練

リスク低下措置後の作業:特別教育実技訓練

リスク低下措置後の作業-2:特別教育実技訓練

リスク低下措置後の作業-2:特別教育実技訓練

これまで述べてきたように「傾斜面用グリップ」にはヒューマンエラーの可能性があり、「スライド」は使い物にならず、「安全ブロック」には運用制限がありました。
これらのリスクを許容しているうちは、作業が安全になる日は決して訪れないでしょう。…
まあ、それは飲んだくれの戯言と、一笑に付されたらそれまでですが、本来リスクバリューの見積りは主観です。(リスクアセスメント)… 憂さ晴らしにTanquerayは優しすぎます。
有効な選択肢が見つからないので、とりあえず今はEN-12841-A適合の墜落阻止器具に頼むよりほかありません。
tequila を飲み干して、モバイルフォールアレスター、アサップロックの登場です。
アサップロックは「グリップ」や「スライド」のようなカムロック式ではありません。(ジャミングローラー式)
カムロック式は、把持すると墜落が止まらないのが弱点で、それはEN-12841-Aの適合品でも同じです。
把持しても墜落が止まるジャミングローラーは、世界に「アサップロック」ただ一つです。

img_3568_rimg_3576_rimg_3660_r最後に2007年、栃木県の松田川ダムで行われた高圧洗浄機メーカーのイベントで、ドイツ人のIRATA レベル3テクニシャン(セバスチャン君だったかな)が披露した「のり面ロープ高所作業」の写真をご覧いただきたいと思います。

やがて日本ののり面保護工事でも、こんなメソッド(産業用ロープアクセス)を採用する企業が現れることでしょう。
安全で高効率なのですから、当然です。 その日はとっても近いかも

乾杯、Cheers、Prost!

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