ロープの設置:不安全な設置の仕方を教えます

ステンレス製の雨樋や、笠木のジョイント部は、シャープなエッジの最たるもので、ロープの切れる事故が、ガラスクリーニング業において時々発生します。
岩やコンクリートのエッジも危険で、ロープに鋸の歯を当てるのと同じことになります。
人ひとりの体重と同じ負荷をかけたロープ(巻き型養生あり)を、シャープなエッジに当て、横ズレさせると、わずか一往復半で切れることは、実験動画を何度も繰り返し見てもらっている人たちには、その危険性をよくご理解いただけているものと思います。
ロープの保護として養生は、完璧ではありません。

事故を防ぐためには、メインロープが切れても、作業者を保護しなければならず、そのためにライフラインでバックアップを図ることは、しごく当然のことといえます。
公示された国内法(ロープ高所作業)でも、ライフラインの設置が義務付けられています。
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写真は、設置されたメインロープとライフラインのイメージです。
このように並列した支持物を、それぞれ2個づつ使用して、メインロープとライフラインを設置する方法は、いろいろな企業・団体で、ひろく採用されています。
支持物間の距離は、フォールアレスター(墜落阻止器具)のランヤードの長さから、最大700㎜が有効と推察されますが、ビルの屋上の丸環で、これと同じことをやるのは、いかがなものかと思われます。

DSC08557_Rどういうことかというと、丸環というものは、約6メートル間隔で設置されていますから、ライフラインはメインロープ側に斜めに引っ張られてしまいます。
そのため、メインロープに切断、はずれ、その他異常が発生すると、たちまちライフラインが笠木上を横滑りしてしまい、切れてしまうからです。
このような設置は、ライフラインに命綱の意味がありません。

墜落の衝撃という、過大な負荷のかかったロープが切れるときは、一気にエネルギーが放出されるので、爆発と同じ現象がおきます。
破裂音が発生し、破断したロープは、縮んで、短くなるのが特徴です。

過大な負荷をかけたライフラインの切断面

過大な負荷をかけたライフラインの切断面

約30kgの負荷をかけたメインロープは、ステンレスのエッジを3回こすれば切れます!

約30kgの負荷をかけたメインロープは、ステンレスのエッジを3回こすれば切れます!

切断面の比較:右がメインロープ、左がライフライン

切断面の比較:右がメインロープ、左がライフライン

ライフラインは、墜落阻止時の衝撃という、過大な負荷ががかかるロープであることをよく理解しなければなりません。
ライフラインは、メインロープの影響を受けないよう設置する必要があります。

また、ホワイトボードの絵で示したように、それぞれのロープを設置した支持物の、次の支持物(AとB)が、役に立たないんだということも、よく理解しておくといいでしょう。DSC08552_R

次回28日のロープアクセス講習会では、安全で、簡単で、実用的なロープの設置方法を教えたいと思います。

ご安全に

ディビエーション技術とは

8月5日、ロープ高所作業における危険の防止を図るための安衛則の一部を改正する省令が公示されました。
厚生労働省のホームページに、通達が公開されています。

その通達の最後に、ディビエーション技術が、絵付きで紹介されています。
ディビエーションは、シャープなエッジ等に、ロープが施触しないよう細工する、ロープの取り付け方法のひとつです。
ロープは、危険源に接触さえしなければ、切れる可能性は生じません。
したがってディビエーションは、ロープの切断による墜落防止の措置としては最も望ましく、ひろくロープアクセスの業界で運用されています。DSC08544_R

ディビエーションとは、厚労省の文書を引用すれば、「別の支持物、滑車、カラビナ等を用いて、メインロープの位置、方向を変えることで、接触によりメインロープが切断するおそれのある個所とメインロープとの接触を避ける措置」ということになりますが、これはSRT(シングルロープテクニック)といい、ケイビング等(スポーツ)で行われている技術です。
ロープアクセスは産業なので、ディビエーションは、メインロープの他にセーフティライン(ライフライン)も使用して、いわゆる2ロープ、2アンカーの状態で行います。
最近はシングルのディビエーションよりも、さらに安全なダブルディビエーションが採用されるようになりました。

ディビエーションは、作業者に、通過するテクニックがなければ運用できません。
通過に必要なテクニックは、腕力技です。
そのため、ロープの位置、方向を変える「別の支持物」(ディビエーションアンカー)とロープの成す角度が直角に近づけば近づくほど、バカ力が求められ、通過はだんだん困難になって行きます。
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通達の挿絵のように、メインロープがディビエーションよって、ほぼ直角に曲がる場合は、とても厄介です。
作業者の体重の約1.4倍の負荷がかかってしまうからです。
これを腕力で引き寄せることはできません。
したがって、通過はできないことになます。

くわえて、「別の支持物」に、大きな負荷がかかってしまうことを見過ごしてはいけません。
破断のリスクが生じるので、シングルのディビエーションは不安全です。
よい子は けっしてマネをしないように!
これはリスクアセスメントです。
ディビエーションの角度が大きくなってしまう場合は、ダブルディビエーションにしたり、支持物の位置を見直したり、あるいはリアンカー(リビレイ)に変更したりして、負荷の低減を図る必要があります。
それでも無理な時は、作業そのものを再検討しなければなりません。
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8月17日に、臨時に開催したロープアクセス講習会には、新人2名が参加しました。
ディビエーションの通過をトレーニングしました。
ディビエーションの通過は初級者レベルの技術です。(このレスキューは中級者以上)

ご安全に

リビレイ技術とは

8月5日、ロープ高所作業における危険の防止を図るための安衛則の一部を改正する省令が公示されました。
厚生労働省のホームページに、通達が公開されています。

その通達の最後に、リビレイ技術が、絵付きで紹介されています。
リビレイは、シャープなエッジ等に、ロープが接触しないよう細工する、ロープ取付方法のひとつです。
ロープは、危険源に接触さえしなければ、切れる可能性は生じません。
ですからリビレイは、ロープの切断による墜落防止の措置としては、もっとも望ましい方法といえます。
ロープアクセスの業界では、ディビエーションと共に、ひろく運用されています。
しかし、ブランコ作業が専門のガラスクリーニング業で、ロープの切断による墜落防止の措置といえば、「起き型養生」と「巻き型養生」の2点しか知られていないのが実情です。
全国GCA連合会出版の「ブランコ作業マニュアル」に、リビレイの記載は皆無です。
これにより、ガラスクリーニング業界のリスクアセスメントは、いまだ途中と推察されます。

DSC07558_Rリビレイとは、厚労省の文書を引用すれば、「危険源との接触によりメインロープが切断するおそれのある個所の下方にある堅固な支持物にメインロープを再堅結すること」になりますが、これはケイビング等(スポーツ)で行われている技術です。
ロープアクセスは産業なので、リビレイは、メインロープの他にセーフティライン(ライフライン)も使用して、いわゆる2ロープ、2アンカーの状態で行います。
昨年からIRATAでは、スポーツのリビレイとの分離を図り、「リアンカー」と表現するようになりました。

DSC07557_Rリアンカー(リビレイ)は、作業者に、通過するテクニックがなければ運用できません。

くわえて、救助技術も必要です。
ロープ高所作業の省令は、オンサイトレスキュー(作業チームによる救助)を要求していません。
DSC07563_RDSC07564_Rだからといって、消防のレスキュー隊にたのんでも、速やかな救助は困難です。
オンロープの救助は特殊ですから、ただ、いたずらに迷惑をかけてしまうことになりかねません。
オンロープのことは、消防よりもロープ高所作業の従事者のほうが専門です。
救急車が到着すまでに、要救助者を地面まで降ろせたほうがベストでしょう。

DSC07593_RDSC07594_RDSC07595_R8月14日のロープアクセストレーニングは、参加者が私とナベさんの2人だったので、超ムズい、ラージリアンカーの底、いわゆるボトムからのレスキューを訓練しました。
ナベさんは3,4日、笑ったら腹筋が痛いと思います。

 

ご安全に